作者:桜めっと

ハヤトはパソコンの前に座り、オンライン家庭教師の授業を受けていた。
しかし、ここ数日ずっと気になっているネネコの失踪や、彼女に届いた脅迫文の件が頭を離れない。
目の前の授業の内容はほとんど耳に入らず、無意識に画面を見つめているだけだった。
「ハヤトくん、今日は少し集中できていないようですが、大丈夫ですか?」
ハヤトは一瞬、ハッとして目の前の画面に映るアバターを見つめ直した。
「あ、すみません。ちょっと考え事してて…」
「何か悩んでいるなら無理に集中しなくてもいいですよ。ただ、今やっているところは重要な部分ですから。終わったらちゃんと復習しておいてくださいね?」
「はい、ありがとうございます…すみません、先生」
授業は続いたが、ハヤトの頭の中はずっと別のことでいっぱいだった。
「カエル先生、実は…ネネコがいなくなっちゃったんです」
「いなくなった?」
「はい。それで、ネネコのことを深く追いかけ始めてるんですけど…ネネコはこんなこと望んでるのかな?って」
「そうなんですね。ハヤトくんが本当に心配しているなら、彼女のことをもっと知りたいと思うのも当然だと思います。きっとハヤトくんなら何か手がかりを見つけられるんじゃないでしょうか?」
「でも俺、頭も良くないし…」
「でも好きな物に対しては一生懸命でしょう?ハヤトくんにはハヤトくんにしかできないことがあります。絶対に」
「俺にしかできないこと…」
家庭教師との通信を切ると、すぐに机に置いたスマホを手に取り、ネネコクラブのグループトーク画面を開いた。
この事件は、自分にしか解決できないかもしれない。
ネネコを助けられるのは、自分だけかもしれない。
ハヤトの頭には、あの脅迫文が何度もよぎっていた。
「誰がネネコに脅迫文なんて送ったんだろう?」ハヤトは独り言をつぶやきながら、考えを巡らせ始めた。
ハヤトは脅迫文の犯人を特定するために、まずは誰がその文を送った可能性があるのか、グループ内のメンバーについて考え始めた。
彼は今までのやり取りやオフ会での様子、そして昨日のLINEでの会話を思い出しながら、一つ一つのピースをつなげていった。
まず、神だ。

情報通で、ネネコが悩んでいたことを知っていた。
「神は他のVTuberたちとも繋がっていて、色んな情報を集めているみたいだけど…ネネコに対しては好意的だった。脅迫文を送る理由はなさそうだ」
ハヤトは神の冷静な言動を思い返しながら、彼を除外する方向に考えを進めた。
しかし、完全に疑いを捨てることはできない。
神の冷静さは、何か隠しているのではないかという不安をハヤトに残していた。
次に考えたのはチェリー。

彼はおとなしく、引っ込み思案だが、ネネコに対しては強い思いを抱いていることが感じられた。
「チェリーはネネコのことをずっと応援してたし、脅迫文なんて送るとは思えないけど…昨日のグループトークで、ちょっと動揺してたよな。心配するのは当然だけど、それにしても一際ビクビクしてた気がする…」
チェリーの普段の様子とは違う反応が、ハヤトの胸に小さな疑念を残していた。
虎之助に関しては、特に違和感はなかったように思えた。

しかし、虎之助はネネコと個人的に連絡を取っていたということもあり、ネネコに最も近い存在だ。
2人の間にトラブルが全くなかったとは言い切れない。
そして、最後に考えたのがあみにゃんだった。

彼女は昨日のLINEで、ネネコと虎之助の親しい関係について軽く触れていた。
ハヤトはあの時、少し違和感を覚えていた。
「昨日のあみにゃんの言い方、ちょっと気になったんだよな…。ネネコと仲良くする虎之助のことを良く思ってないようだった。あれって嫉妬?もし、あみにゃんがその気持ちを持っていたとしたら…」
ハヤトは、脅迫文の送り主が感情的な理由で行動した可能性を考え始めた。
もし、あみにゃんが虎之助とネネコの関係に嫉妬していたなら、その感情が暴走して、ネネコに対して脅迫文を送る行動に出たのかもしれない。
「でも、それだけで脅迫文を送る理由になるのか…?」
ハヤトは頭を抱えながら、自分の考えに疑問を抱きつつも、あみにゃんに対しての違和感を完全には拭えなかった。
彼女の言動は、他のメンバーとは少し異なっていたようにも感じたからだ。
ハヤトは、犯人を特定するためにもう一つの手がかりを探そうと決意した。
ネネコが失踪する直前に受け取った脅迫文の内容や、そのメールの送信元の情報をもっと詳しく調べることができれば、何か決定的な証拠が見つかるかもしれない。
「虎之助に協力してもらうしかないか…」ハヤトは決意を固め、スマホを手に取り、虎之助に連絡を取る準備を始めた。