第10章:帰り道に明かされる真実

第10章:帰り道に明かされる真実 推しが消えた

作者:桜めっと

ネネコの正体がチェリーだと判明し、一応の事件解決を迎えたが、ハヤト、虎之助、あみにゃんの3人はどこか晴れやかな気持ちにはなれないまま、帰り道を歩いていた。
夜の街灯が彼らの影を伸ばし、微妙な沈黙が3人の間に漂っていた。

「まさか、あのチェリーがネネコだったなんて…」
ハヤトがぽつりとつぶやいた。

「本当だよ。ネネコってどんな時でも可愛い声だったし、完璧な女の子だったよ?あみにゃん、よく気づいたなって」
虎之助も驚きを隠せず、呆然とした表情で言った。

あみにゃんは少しだけ微笑み、黙って聞いていたが、ふとハヤトがあみにゃんに問いかけた。

「ところでさ、あみにゃん…俺と話してて平気?男嫌いって聞いてたけど」

あみにゃんは少し照れくさそうに肩をすくめ、ぽつぽつと話し始めた。
「…平気かどうかは、相手によるの。男の人全員がダメってわけじゃなくて」

ハヤトが不思議そうに首をかしげた。「それってどういうこと?」

「…過去のことがあって、男の人が好意を持って近づいてくると、つい身構えちゃう。酷いことされそうで。
でも、顔が見えない人や、下心が全く見えない人なら大丈夫。
だってハヤト、ネネコにしか興味ないでしょ?」
悪戯に笑うあみにゃんに、ハヤトは笑いながら頷いた。

「オンライン家庭教師も、顔が見えない先生に教えてもらってて。カエルのアバターで可愛いの」そのアバターを思い出したのか、ふふっと小さく笑うあみにゃん。

ハヤトは少し驚いた顔で聞き返した。
「…あみにゃんもカエル先生に教わってるの?」
その言葉に、あみにゃんもまた目を見開いて驚いた。
そして、その表情はみるみる曇っていく。

「…ねえ、ハヤト。そういえば、変だなって思うことがあるの」
あみにゃんは、何かに怯えるように語り始めた。

「変だと思うこと…?」

「うん、実はね…授業終わりに猫の話をしてたの。私、猫が大好きで。家では飼えないんだけど、猫の動画を観てるってカエル先生に話したの。
そこで、ネネコのことを教えてもらったの。きっと気に入ると思うって。
調べたら、猫をモチーフにしたVTuber可愛いなって見た目が気に入って。
それで配信を観始めたらハマっちゃって…それから、虎ちゃんにもネネコのことを教えて…」

その言葉に、ハヤトは息を飲んだ。

「あみにゃんがネネコにハマったのって1年ぐらい前だよね?」
ハヤトの問い掛けに、あみにゃんは頷いた。
ハヤトがネネコの配信を観出したのは、ネネコが配信を始めて間もなく。
1年2ヶ月前のことだ。
カエル先生を家庭教師につけるよりも前だった。
当初はファンも片手で数えられる程度しかおらず、あみにゃんがハマったタイミングでのファンも、20人にも満たないほどだった。
初めての授業の雑談で趣味を聞かれたハヤトは、ネネコのことを話した。その時、カエル先生はネネコのことを知らないようだった。
「あれからネネコの配信を見て、カエル先生もネネコにハマった…?あみにゃんに紹介するほどに?でも、そんなこと俺には一言も言わなかった。いつも俺の話を一方的に聞くだけで、ネネコが好きだなんて一言も…」

「…虎ちゃんのことも、カエル先生に相談したの」あみにゃんの言葉に、虎之助も驚いた。

「え?どういうこと?」虎之助が尋ねると、あみにゃんは少し気まずそうにしながらも続けた。

「…最初、虎ちゃんがネネコと親しそうにしてるのが気になってね、カエル先生に『虎ちゃんを取られるんじゃないかって不安なんです』って話したの。
そしたら先生が『それは当然の気持ちです。虎さんが誰か他の人に惹かれているように見えるのなら、あなたも何か行動を起こすべきかもしれませんね』って」

あみにゃんは、カエル先生がさらに続けた言葉を思い出した。
「『たまには、虎さんにとって君がどれだけ大事かを思い出させる必要があると思います。もし君が不安なら、ネネコに自分の気持ちを知らせてもいいかもしれない。少し距離を置いてもらうような言葉を送るのも一つの手です』って」

「それで…」
あみにゃんは苦しげに眉を寄せた。
「私…ネネコに脅迫めいたメッセージを送ることを思いついて…送ったんだ」

虎之助は少し呆然とした様子であみにゃんを見つめ、「つまり、カエル先生に相談したことがきっかけで、そんなことをしたってわけか…」と小さくつぶやいた。

ハヤトは二人のやり取りを聞いていて、ふと妙な違和感を抱いた。
「そういえば…俺も、ネネコのことを探るように誘導されたような…。それは俺にしかできないことだからって…」
当時は全く疑っていなかったが、徐々に疑問を感じ始めた。
そして、カエル先生と似た言葉を、別の人から言われたことを思い出した。

『ハヤトはネネコクラブの中で一番古いファンだろ?誰よりも長くネネコを支えてきたファンだ。もしネネコが何かに悩んでるなら、一番気づいてあげられるのはハヤトだと思ってた。だから直接会ってみたかったんだ』

「あみにゃん、カエル先生って…まさか神じゃないよな?」その考えが巡った瞬間、ハヤトはゾッとした。

その言葉にあみにゃんは驚いた表情で顔を上げた。「えっ…?どうして…?」

「不自然に思えてきたんだ。カエル先生と、神の意見が一致してるところがある気がして…」

あみにゃんはその言葉に目を見開き、息を呑んだ。「そんな…」

その一言で3人の間に冷たい沈黙が走った。神の異様なまでのネネコへの執着心、さらに今日、チェリーを飲みに誘った行動。

「あの人がチェリーに何かしようとしてるのかもしれない…やめさせないと!」虎之助が震える声で言った。
「でもどうしよう…もう2人の姿見えないし…」
振り返った先に既に2人の姿はなく、あみにゃんも動揺を隠せない。
駅とは異なる方向へ進んだということは、そう遠くへは行っていないはずだ。ただ、繁華街を闇雲に探して見つかるとは思えない。

「あ!」ふと、何かを思い出したようにあみにゃんがスマホを取り出した。
「…チェリー、今日もあのGPSが入ったマスコット持ってる…!」
あみにゃんが2人に見せたスマホ画面には、ゆっくりと移動する丸印があった。
それが、チェリーの現在地を示している。

ハヤトは唇を引き結び、真剣な表情で2人に言った。「…急ごう。チェリーが危ないかもしれない」

日が落ちた暗い道に、3人は不安と焦りを抱えながら駆け出した。
街灯の薄明かりの下で、不気味な静寂が広がっていた。

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