作者:桜めっと
「コンビニ店員がネネコ…それってつまり…チェリーがネネコってこと?」
全員の視線が一斉にチェリーに向けられた。
チェリーは視線を避けるようにうつむき、しばらくの間沈黙していたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「…僕が、ネネコです」
チェリーは、これまで誰にも話さなかった自分の秘密を、ようやく打ち明ける決意を固めた。
彼がネネコになるまでの道のり、そしてその中で抱えていた罪悪感について、正直に語り始めた。
「僕はずっと…引きこもりでした。何もできない奴でした。誰にも必要とされてない、価値なんてないって思ってました。
ネネコを始めたのは気まぐれでした。元々遊びで女の子の声の練習をしていたのもあって、何もできない僕だけど、声だけは少し自信があったんです。
どんどんファンの方が増えて、求められて、信じられなかったけどすごく嬉しかった。
コンビニでバイトを始めたのも、ネネコファンの方々からの応援をもらって、少し自信がついたからで…」
チェリーの言葉には、少しずつ自信を取り戻した彼の姿が見え隠れしていた。
「あみにゃんの話なんですけど…ごめんなさい。編集の相談で虎之助と話をするようになって…女の子だってことに気づいた時、正直、驚きました。
女の子と直接話したのなんて久しぶりで緊張しました。でもそれと同時に、いつも優しく真面目に向き合ってくれる彼女に惹かれていく自分がいたんです」
虎之助がチェリーを見つめ、少し驚いた表情を浮かべていたが、言葉は発さなかった。
「コンビニで虎之助と初めて会った時、あみにゃんとの会話を聞いて、すぐに虎之助だって気づきました。虎之助の声だ…って。見た目も雰囲気も想像通りの人でした。それからは…毎週金曜日に、虎之助とあみにゃんが来るのを待つようになりました」
チェリーは苦しそうに顔をゆがめながら続けた。
「でも、ネネコとして活動している自分が、虎之助に惹かれていることに気づいてしまった時、ものすごい罪悪感に襲われました。
虎之助にとってのネネコは可愛い女の子なのに、本当の自分を好きになってほしいなんて思っちゃいけないって…」
チェリーの声は震えていた。
「だから、金曜日の配信になると、どうしても気持ちが沈んでしまっていたんだと思います。
ネネコの正体は、最近まで引きこもりだったフリーターの男。それを隠して虎之助に接している自分が許せなくて…。皆のことも騙しててごめんなさい。
ネネコを応援してくれる人の声を生で聞きたかったんです。
それが自信になるから。
ネネコがこんな僕で、イメージを壊してしまってごめんなさい」
チェリーの告白に、部屋は静まり返った。
つたない言葉で慎重に言葉を選んでいくチェリーの話に、その場にいた全員が静かに耳を傾けた。
そして、その葛藤と罪悪感を理解し、言葉を失っていた。
チェリーの声には罪悪感が滲んでいた。
ネネコとしての自分を好きでいてくれた人たちを裏切る形になったことが、チェリーをずっと苦しめてきた。
しばらくの沈黙の後、神がゆっくりと口を開いた。
「チェリー…いや、ネネコが誰であっても、俺たちはネネコが大好きだった。
もちろん驚いたけど、イメージを壊されたなんて思ってないよ。ネネコのお陰で俺は毎日楽しかったし、大袈裟でも何でもなく、ネネコは俺にとっての生きがいだった」
その言葉に、少しずつ他のメンバーも頷き始めた。ハヤトが笑みを浮かべながら続けた。
「そうだよ、ネネコはネネコだ。俺たちが応援してたのは、チェリーが作り出したキャラクターなんだ。チェリーがいなかったらネネコにも会えなかったってことだろ?ネネコがいない生活なんて、想像もつかないよ」
虎之助も少し苦笑しながら言った。
「正直、びっくりはしたけど、チェリーがネネコだったって知って逆にワクワクしちゃうところもあるかも。だってさ、ネネコが実は身近な存在だったって、ちょっと面白くない?」
その言葉に、あみにゃんも頷いた。
「うん、そうだね。こんなことになっちゃったけど…あたしネネコが大好きなの。ネネコみたいになりたいって憧れちゃってたくらい。なのに嫉妬して嫌がらせしちゃって、本当にごめんね?」
チェリーは驚いた顔で皆を見渡した。
自分の正体を打ち明けたことで皆が幻滅するかもしれないとずっと恐れていたが、そんな反応ではなかった。
むしろ彼らは、ネネコとしてのチェリーを称賛し、受け入れてくれている。
「本当にありがとう。正直、皆と話すことは楽しかったけど、やっぱりずっと罪悪感は感じてたんです。…嬉しいな。応援してくれてた人が、こんなに素敵な人たちばかりで…」
チェリーは微笑みを浮かべながら続けた。
「自分がどうしたいのか、今はよくわかりません。でも、これからはネネコとしてじゃなくて、一人の人間として、何か新しいことをやってみたい。そんな気持ちになりました」
その言葉に、メンバー全員が微笑み返した。彼らは、チェリーが新しい一歩を踏み出す決意を見守り、応援する気持ちを抱いていた。
「チェリー、この後一緒にお酒でもどう?大人同士、お酒の付き合いもいいだろ?」神からの誘いに、「じゃあ…」と照れ笑いするチェリー。その表情は、とても晴れやかだった。
「じゃあ、未成年の私たちは帰ろうか。ハヤト、駅まで一緒に行こう」
虎之助の誘いに、ハヤトはあみにゃんの顔色をうかがった。
男嫌いのあみにゃんが嫌がるのではないかと思ったからだ。
その視線に気づいたあみにゃんは、微笑みながら頷いた。