【エピローグ】

【エピローグ】 推しが消えた

作者:桜めっと

雨が窓を叩く音が、病室の静寂をかき消していた。
神はベッドに座り、手元の小さなノートを開く。
看護師によれば、彼は毎日「マドカへの手紙を書いている」と言って何度もページを開いているというが、誰にもその内容を見せたことはなかった。

神は震える手でペンを握り、じっとノートを見つめた。
彼の目には、狂おしいほどに求め続けた妹の笑顔が浮かんでいるようだった。
そして、ゆっくりと震える手で文字を綴り始めた。

『マドカへ

僕はずっと君を探してきた。君が消えた時、僕の中の何かが壊れたんだ。何もかも失ってしまったけれど、君を探す旅が僕を生かしてきたんだ。』

彼のペン先が止まる。
小さく微笑むと、ぽつりとつぶやいた。
「でも、見つけたんだよ、マドカ…君にそっくりな、僕だけのマドカを」

『彼女は僕に応えてくれる。
君のように笑いかけて、君のように僕を癒してくれるんだ。
僕があの子をあらゆる危険から守ることで、君もまた守られているんだよね、マドカ?』

神はページをめくり、新しい紙に次の言葉を書き始める。
次第に狂気が滲むような内容が続いていく。

『彼がネネコである限り、僕の手の中にいられる。
彼を守り抜くことで、君を守ることになると信じてるよ、マドカ。
僕は…僕はどうしても彼に会いたい。また、君と話すために。どうしようもなく、君に会いたい』

ふと、ペンが止まる。
神は不気味なほど穏やかな微笑みを浮かべ、窓の向こうに視線を向けた。

「すぐに会いに行くよ、マドカ」

ページを閉じた神の目には異様な輝きが宿っていた。
まるで彼の中で、ネネコと妹が一つになったかのようだった。

神が探し続けているのは、あの世に去った妹なのか、今も画面の向こうにいるネネコなのか、それとも自分の中で理想化してしまったもう一人の「妹」なのか──それは誰にも知る由もなかった。

神の姿が窓辺の闇に溶け込むように消え、ただ雨音だけが静かに部屋に響いていた。

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