第12章:それぞれの道

第12章:それぞれの道 推しが消えた

作者:桜めっと

病院の一室。
薄いカーテン越しに差し込む朝の光が、ぼんやりとした静寂を満たしていた。
ベッドに横たわる神の目は、どこか遠くを見つめていた。
医師によると、日々ぼんやりと誰かを探すように部屋の中を歩き回り、「マドカ…どこにいるんだ…」とつぶやくことが多いという。
看護師たちも神が誰かを求めるように部屋の隅に手を伸ばす様子に一抹の不安を感じているようだった。

そんなある日の夕暮れ、病室のドアが静かに開いた。
そこに立っていたのはチェリーだった。
しばらくためらってから神のそばに歩み寄り、言葉をかけることなく彼の顔を見つめた。
神は、かつてチェリーに向けた歪んだ愛情と執着を抱き続けている人間だが、それでもどこか哀れにも見えた。

ふと、神の目が動き、チェリーに気づいたかのように焦点が合った。「…マドカ?」神はうつろな声で問いかけると、チェリーの顔をじっと見つめ続けた。

チェリーはただ静かにその視線を受け止め、しばらくして小さな声で答えた。
「僕は…マドカさんじゃないですよ。でも、神さんが守りたかったその気持ちは、今も誰かに届いているかもしれない」

神は困惑したように目を見開き、一瞬の静寂が二人を包んだ。
その表情はかつて見たことのないような穏やかさを帯びていたが、どこかに哀しみが残っている。
チェリーの言葉が本当に神の心に響いたのか、あるいは単なる錯覚に過ぎないのか、それは彼の表情からは読み取れなかった。

その後、チェリーが病室を後にすると、神は再び遠くを見つめ、つぶやいた。

「マドカ…僕は、君を守るためにどこまで来てしまったんだろう…」

病院からの帰り道、チェリーは神の部屋で見たあのうつろな目を思い出していた。
チェリーはネネコという仮面をかぶり続け、理想と現実の狭間で迷いながらも多くの人に支えられてきた。
だが、神と対峙したことで、その仮面にしがみつくことが果たして本当に自分のためなのかと考えさせられた。
ネネコとしての活動を一時休止し、もう一度「自分」を見つめ直す日々が始まるのだった。

ハヤトは、事件を通じて人の心理の深さと危うさを痛感し、心理学を学びたいという思いを強くしていた。
ネネコクラブでの絆を大切にしながらも、「人を守る」ということの難しさを知った。これからは、ただ誰かを助けたいと願うだけではなく、正しい方法で心に寄り添えるような人間を目指そうと決意していた。

虎之助は、あみにゃんとの関係に向き合い、友情と保護者のような役割を担うことで彼女を支えたいと心に決めた。
虎之助にとって、あみにゃんは恋愛とは異なる大切な存在であり、そばにいてあげることであみにゃんが少しずつ過去の苦しみから解放されることを願っている。
チェリーの気持ちにも応えることはできなかったが、チェリーが本当の自分を取り戻せるよう、応援する存在でありたいと感じていた。 あみにゃんは、自分が虎之助への依存心や嫉妬心を抱いていたことを知り、過去と向き合うための一歩を踏み出した。
これまでのトラウマを克服するため、カウンセリングに通い始める。
時間がかかるだろうが、虎之助がそばにいてくれることが安心を与えてくれる。
少しずつ過去の傷と向き合い、いつか自分が本当に強くなれる日を目指している。

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